第53章:翻訳者歴30年の私が、AIアノテーションに挑戦する理由

2つの岐路に立つ自分

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翻訳の仕事を探していて、気になる仕事を見つけた

私は30年以上、通翻訳の仕事をしてきた。

アメリカ留学をきっかけに英語を身につけ、ニューヨークの銀行で働いた後、帰国してからは通翻訳専任の仕事に携わってきた。金融、IR、環境、IT、食品、映画など、これまでさまざまな分野の通翻訳の勉強をして、そして仕事を勝ち取ってきた。

長年続けてきた仕事であるため、「これからも通翻訳を続けていけばよい」と以前は考えていた。機械翻訳の脅威は感じていたが、それは私が退職した後の世界だと鷹を括っていた。

そして舌癌を発症して発話障害が残った私には通翻訳ではなく、翻訳の道しか残されていない。片方の羽をちぎられたようなものである。もう補助なしに大空を飛ぶことはできない。

ここ数年で翻訳を取り巻く環境は大きく変わった。私の敵は機械翻訳ではなくAI翻訳だった。しかも想定以上に早く追いつかれてしまった。甘かったと言わざるを得ない。

以前なら人間の翻訳者に依頼されていた文章も、AIを使えば短時間で翻訳できるようになった。もちろん、人間による翻訳がすべて必要なくなったわけではない。しかし、翻訳者を取り巻く仕事の環境が変化していることは確かである。

実際、私自身も仕事を探す中で、その変化を感じている。以前は目にしていた翻訳者単体の募集が通翻訳者に変わっている。

翻訳者だけで戦わなければいけない私は、これまで培ってきた英語力や翻訳の経験を、AI時代に別の形で生かすことはできないだろうか。通訳という仕事の形は失っても、英語力そのものが失われたわけではない。今もCamblyでスピーキングの練習を継続しており、この「英語を使い続ける習慣」は、AIアノテーションのような仕事にも生かせるはずだと考えている。

そう考えて調べているうちに目に入ったのが、AIアノテーションという仕事である。名前は聞いたことがあったものの、具体的に何をする仕事なのかはよく分かっていなかった。

そこで今回は、AIアノテーションとは何なのか、翻訳者の経験が役に立つのか、そして60代の私にもできる仕事なのかを調べてみることにした。


AIアノテーションとは何をする仕事なのか

AIアノテーションとは、簡単に言えば、AIが学習するためのデータに情報を付けたり、そのデータを評価したりする仕事である。

例えば、文章を分類したり、画像にラベルを付けたり、音声を文字に起こしたりする作業がある。最近では、それだけではない。

AIが生成した文章や回答を人間が確認し、

  • 内容が正しいか
  • 質問にきちんと答えているか
  • 日本語として自然か
  • 英語として不自然な表現がないか
  • 二つの回答のうち、どちらが優れているか

などを評価する仕事もある。

つまり、AIに単純にデータを与えるだけではなく、人間の判断を使ってAIの性能を高める仕事でもある。

ここで私は、「これは翻訳者の経験を生かせる仕事なのではないか」と思ったのである。


翻訳者の経験はAIアノテーションに役立つのか

翻訳者は、単に英語と日本語の置き換え作業をしているわけではない。原文の意味を正確に理解し、それを自然な英語または日本語にする必要がある。

同じ意味でも、「この表現のほうが自然ではないか」とか「この訳では原文のニュアンスが失われていないか」といった判断を常に行っている。

これはAIが生成した文章を評価する作業にも通じるのではないかと思った。

特に私の場合、長年にわたって英日・日英翻訳をしてきたため、文章の正確さや自然さを判断することには慣れている。

さらに、金融やIR関連の翻訳では、専門用語を正確に扱う必要がある。単純に英語が分かればよいというわけではない。その分野ではどの表現が適切なのかを判断しなければならない。

AIアノテーションの仕事にも、こうした経験を生かせる案件があるのではないかと考えた。


実際に求人を探してみた

そこで、実際にAIアノテーション関連の求人を探してみた。

ここで分かったのは、「AIアノテーション」と一口に言っても、仕事内容はかなり幅広いということである。

単純なデータ入力に近い仕事もあれば、英語力を必要とする仕事もある。また、AIが生成した文章を評価する仕事や、特定の分野について知識を持つ人を対象とした仕事もある。

つまり、「AIアノテーション=誰でもできる単純作業」というわけではないようである。

逆に、英語力や文章を読む力、専門分野の知識などが求められる案件であれば、これまでの翻訳経験を生かせる可能性がある。

これは私にとって興味深い発見であった。


しかし、60代でも仕事ができるのか

ここで、避けて通れない問題がある。年齢である。私は現在60代である。これまで仕事を探してきて、経験や資格だけでは越えられない年齢の壁があることを実感している。TOEIC満点でも「年齢」で切り捨てられた経験もあり、長年の翻訳経験があっても、求人によっては年齢が大きな超えられない壁になる。

実際に調べてみると、年齢に関わらずIT・AI関連のスキルを重視する転職エージェントも増えてきている。エイジレスエージェントもその一つで、40〜50代を中心に、年齢を強みとして捉える支援を行っている。

では、AIアノテーションならどうなのか。

求人を調べてみると、年齢だけで簡単に判断することはできないものの、案件によって応募条件はかなり異なる。英語力を求めるもの、専門知識を求めるもの、PCスキルを求めるものなどさまざまである。また、雇用契約ではなく、業務委託という形の仕事もある。海外からの募集の場合は、給与の支払いも米ドル建でPayPalのみというケースも見かける。また、保険は各自で加入する必要がある。正直、不安はある。本当に支払いをして貰えるのだろうか。突然、その業務委託元が潰れてしまうのではないだろうか。

そのため、「AIアノテーションなら60代でも簡単に仕事が見つかる」とは言えない。


翻訳者はAIと競争するのではなく、AIを評価する側に回れるのか

これまで私は、AI翻訳の発達を見ながら、「AIに翻訳の仕事を奪われるのではないか」と考えていた。しかし、AIアノテーションについて調べてみると、少し違った見方もできることに気づいた。AIが翻訳をする。その翻訳が正しいのか、人間が確認する。AIが文章を作る。その文章が自然なのか、人間が評価する。

つまり、AIに仕事を奪われる側から、AIを評価する側へ移るという考え方である。

もちろん、すべての翻訳者がAIアノテーションに向いているわけではない。また、この仕事が今後どれほど安定した仕事になるのかも、現時点では分からない。それでも、30年以上翻訳をしてきた私にとっては、非常に興味深い分野である。


実際に応募してみることにした

求人を調べているだけでは分からないことも多い。そこで私は、条件の合う仕事があれば、実際に応募してみようと思う。採用されるかどうかは分からない。年齢で断られるかもしれない。トライアルで不合格になるかもしれない。

そもそも、自分が想像していた仕事とは違う可能性もある。それでも、やってみなければ分からない。これまで30年以上、翻訳という仕事をしてきた。

その経験をAI時代にどのように生かせるのか。その答えを探すためにも、まずは一歩踏み出してみようと思う。

「60代だから無理」と最初から諦めるのではなく、実際に調べ、応募して、その結果をこのブログに記録していきたい。

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