第37章:東大大学院サステナブルファイナンス|ずぶの素人が金融のプロたちと格闘した夏

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一生勉強は続く——そう気づいてからも、勉強が終わることはなかった。

翻訳者として10年以上、専門学校に通い続けた。その頃、世界の最重要課題は地球温暖化へと移っていた。そして、金融の世界でもサステナブルファイナンスへの注目が急速に高まっていた。

私が所属していたのは、信用格付け会社のサステナブルファイナンス評価本部。アナリストではない通翻訳者だったが、専門知識なしには仕事にならない。そこで、会社に頼んで、東京大学大学院の夏期講習を受講することにした。講座名は「サステナブルファイナンス」だ。


入学面接——20年ぶりの再会

入学試験は面接だった。経歴書を提出し、zoomで面接室に入る。すると、面接官の一人が私の経歴書に目を止めた。

「自分もその頃、同じ銀行で働いていたんですよ」

ただ、別の部署にいた、年上の方だった。NYの銀行での日々が共通の話題となり、面接は嫌でも盛り上がった。それが合格の一因だったと思っている。

そして、もう一つの理由は、20人の定員のうち女性がわずか5人だったこと。多少は有利に働いたのではないかと、今でも思っている。


プロの集団に一人だけ紛れ込んだ素人

クラスメートは、金融機関やメーカーのサステナビリティ担当者。まさにプロの集まりだった。しかも、私だけが通翻訳者だった。サステナブルファイナンスについては、ずぶの素人だった。

全体像をつかむために、まず手に取ったのがこの一冊。
サステナブルファイナンス原論 単行本 – 2020/9/8
また、個人的に興味を持ったのは昆虫絶滅 単行本 – 2023/12/5

まず、予習にも復習にも、人の何倍もの時間がかかった。実際、課題のレポートは1枚書き上げるのに1週間かかることもあった。授業の録画を何度も繰り返し見る。そして、ようやく言葉の意味を理解し、自分の言葉でまとめる。その繰り返しだった。


レポートを5分で書き上げたクラスメート

ある日、授業が終わってQ&Aセッションが始まった。すると、目の前に座っていた男性が、突然PCをものすごい勢いで打ち始めた。そんなに重要な話でもないのに、なぜだろう。不思議に思い、思い切って聞いてみた。

「レポートを書いて、提出しました」

空いた口が塞がらなかった。

私が授業の録画を何度も見返し、1週間かけて書き上げるレポート。それを、彼は5分で書き上げて提出済みだという。

その理由を聞いて、なるほどと思った。実は、奥様が妊娠中で、いつ産まれるかわからない状態だったのだ。いつ病院に駆けつけることになるかわからない。だから、レポートには時間をかけないと決めていたのだという。

プロとはそういうものか、と思った。つまり、知識と経験が土台にあるから、5分で本質をつかめるのだ。私が1週間かけてたどり着く場所に、彼は5分で着いてしまう。


あっという間に夏は過ぎた

それでも、仕事を早退して通学した。山のような課題図書とレポートに追われ、夏はあっという間に過ぎた。

バイリンガルであることは入り口に過ぎない。専門知識、資格、経験。それらを積み重ねて初めて、「翻訳者」と名乗れる。NYの銀行員。54人とのお見合い。専業主婦。翻訳者。そして、東大大学院の夏。

結局、一生勉強は続く。それはもう、疑いようのない事実だった。

追記:同級生からの贈り物

あの夏の講習から2年後、同級生の一人から思いがけない贈り物が届いた。

届いたのは、排出量取引/カーボン・クレジット 100問100答という本だ。出版したのは、彼が勤める森・濱田松本法律事務所の外国法共同事業グリーン・トランスフォーメーションプラクティスグループである。希望する同級生全員に配ってくれるとのことで、私も一冊いただくことになった。

あの夏、いつ生まれるかわからないと語っていたお子さん。今ではすっかり、一児の父となった彼を夢中にさせているらしい。さらに、「子供が可愛すぎて仕方がない」と、メッセージの向こうから親バカぶりが伝わってきた。

近況をやりとりする中で、闘病中であることを伝えた。すると、彼は病気のことをとても心配してくれた。あの夏、机を並べて課題に格闘した仲間。その仲間と、時間が経った今もつながっている。そのことに、あたたかい気持ちになった。

専門家ではない私が読んでみて

帯には「GX・脱炭素ビジネスの担当者にとって必携のテキスト」と書かれている。

翻訳の実務で、サステナブルファイナンス関連の案件には携わってきた。しかし、私はサステナビリティの専門家ではない。正直に言えば、この本の内容は簡単ではなかった。また、専門用語や制度の説明も多かった。法務・GX・脱炭素関連の実務に直接携わる人が、主な読者なのだろう。そう感じる場面も多かった。

ただ、100のQ&A形式の構成のおかげで、一つずつ読み進めることができた。専門家ではない私にとって、これは大きな救いだった。

実務の最前線にいる法律事務所ならではの視点がある。教科書には載っていない具体的な事例もある。実際、翻訳の現場で断片的に触れてきた知識がつながっていくような感覚があった。思わず引き込まれる部分もあった。

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