第7.8章:はじめてのハロウィーン

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知らなかったハロウィーン

本当に恥ずかしい話だが、留学前にハロウィーンのことは全く知らなかった。今と違ってインターネットもなかったので、情報を得る手段も限られていた。加えて、私の学生時代は厳しい受験期にあたり、受験の厳しさ・過酷さが高水準だった。

受験に明け暮れた高校時代

私は父の転勤で、地方に住んでいた。そこでは今では信じがたいだろうが、中学生浪人をして高校に入るための予備校に行くことが珍しくない環境だった。だいたい、1クラスに2〜3人は中学浪人をする。

当時、合格者をまとめて選抜し、その後に3つの高校へ振り分ける「合同選抜制度」が行われていた。「合格後に学校が決まる」という制度だったため、均等な学力分散が行われていたが、受験生が自分で学校を選べなかった。私もその一人で、第2希望の高校に進学が決まった。どの高校も合格者の2/3は男子生徒だった。その選抜高の下には、女子には女子校があった。しかし男子には、偏差値の高い順番で県立だとすると工業高校と商業高校の選択しかなかった。

その当時、偏差値の高い私立の高校はなかった。つまり、良い大学に行きたければ、合同選抜高に合格しなければならなかった。クラスでその選抜高に行けるのは、2割にも満たない。

勉強漬けだった私は、テレビを観ることも雑誌や漫画を読むことも禁止された。聴いて良い音楽は、クラシックと映画音楽だけだった。当然、アメリカの楽しい文化を知るすべもなかった。ちなみに、1浪だけでなく2浪する生徒もいた。一度私立の高校に入ったもののやはり辞めて、再受験して選抜高に入る生徒もいた。だから、高校3年生の時に成人式(当時は20歳)に参加するクラスメートもいた。法的に飲酒も喫煙も認められている彼らに対して、教師には「タバコを1本吸うと、英単語や公式を1つ忘れる」と脅されていたことを思い出す。

木にぶら下がる人形に驚いた朝

ある日の朝、木にまるで自殺者のように見える等身大の人形がぶら下がっているのを見た。これが、私が初めて体験したハロウィーンだった。なんだろう? タチの悪いいたずらだと思った。

授業中にもハロウィーンの話で盛り上がっていたのだろう。しかし、私には理解できなかった。その日がハロウィーンだったとは、知らなかったのだ。ところが、授業が終わって寮に戻ると、ハロウィーンの準備で大騒ぎだった。

子供に混じってトリック・オア・トリート

友人たちに「あなたは子供に見えるから、お菓子を貰いにいってもバレないよ」と言われ、とうとう子供達にまじって”Trick or Treat!”(トリック・オア・トリート!)と言いながら、近所の家をまわる羽目になった。誰にも怪しまれることなく、”ハッピー・ハロウィーン!”と言って、持って行ったバッグにお菓子を入れてもらった。

中には、ハロウィーンであったことを忘れていたと言った男性もいた。彼はペニー(1セントのこと)で満たされた大きな壺を持ってきて、一人ひとつかみできた分のペニーをくれた。正直、お菓子よりも盛り上がった。

全身ピンクの仮装

その日の私の仮装は、何者でもない「全身ピンクの人」だった。頭の先から足の爪の先まで、ピンク色になった。ダークカラーの私の髪をピンクに染めるのに、2缶ものスプレーを使った。ピンクの洋服から出ている顔も手も、全てをピンクにした。友人たちは「ピンク人間だ!」と、私のアイディアを褒めてくれた。

その夜、ピンクにした髪を洗うのに驚くほどの時間がかかった。流しても流してもピンクの水が透明に変わるまで、どれくらいシャワーを浴び続けただろうか。

伝統的な魔女、吸血鬼、海賊、ゾンビ・骸骨や悪魔に加えて、ブロードウェイでキャッツが上演されていたせいか、キャッツに仮装している人も多かった。そのほかには、カエル、宇宙人、そして「あなたは一体誰?」という謎の人もいた。きっと、私もその一人だったのだろう。

あの日、私は初めて笑った

大学生にもなって、そんな子供みたいなお祭りなんて、と最初は思っていた。しかし、いざ参加してみると楽しくて、ずっと笑っていた気がする。

8月にアメリカに来て、10月31日のハロウィーンまで、私は心の底から笑ったことがあっただろうか? 英語の壁を越えられず、クラスについていけず、卒業できない夢まで見る始末。苦しみと悲しみを抱える時間が多かった。とにかく勉強のことしか頭になかったので、この日は本当に救われた。

もっと楽しい時間を作りたい。もっとアメリカの文化に触れ合いたい。その時から、いろいろな行事に参加するようになった。そして翌年から、毎年ハロウィーンで仮装することになった。

日本のハロウィーンに思うこと

日本でもハロウィーンの知名度が高まり、このお祭りを知らない若い人はいないだろう。ただ、ハロウィーンは仮装の日だと勘違いしているような人が多いような気がしてならない。

でも、それはそれで良いと思う。別の国の行事でも食べ物でもなんでも、他の国に興味を持ち、世界は広いことを知ってほしい。

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