第18.5章:銀行員として犯した「許されないミス」|為替トレードの世界で起きた私の失敗談

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銀行員の仕事に「間違い」は許されない。そう思っていた。しかし私は、その許されないミスをやらかした。

為替トレードの仕事で「数字の間違い」は絶対に避けなければならない。入行したての頃は、「間違いを犯したらどうしよう」と毎日ビクビクしていた。課長や副課長に名前を呼ばれるだけで、心臓がビクッとしていた時期もある。

為替トレーダーのアシスタントという仕事

私の最初の業務は、外国為替トレーダーのアシスタントだった。その中でも私は、「カスタマー・ディーラー」を担当しているトレーダーについていた。

カスタマー・ディーラーとは、企業などの顧客との外国為替取引を担当するディーラーだ。たとえば、顧客(企業)から「1億ドルをスイスフランに換えたい」という依頼が来たら、市場で売買して取引を成立させる。カスタマー・ディーラーは、基本的には相場で儲けるのではなく、顧客との売買価格の差(スプレッド)で利益を出す仕組みだ。

私はディーラーと顧客の間に入って取引を仲介していた。ディーラーとは日本語または英語で、顧客とは英語で話をした。

顧客から取引金額を聞き、ディーラーに伝える。そしてディーラーよりその時点のレートを聞いて、それを金額に反映させてスプレッドを乗せて、顧客に伝える。

為替レートは秒単位で動いている。計算をしている間にも、レートは変わる。大きな計算機を使いながら、素早く正確に計算して顧客に伝えなければならない。扱う金額は桁違いに大きい。ミスは許されない仕事だった。

1ドル紙幣さえ見たことがない銀行員

ちなみに私は銀行で働きながら、1ドル紙幣さえ見たことがなかった。金庫さえ見たこともない。

当時の勤務先は法人のみを相手にしており、一般の顧客カウンターさえなかった。すべてはシステムと書類の上で、巨大な金額が動いていた。

当然、銀行員といえば誰もが思い浮かべるような、「紙幣を手に持って扇のようにパッと広げて、ざっと金額を数える動作(縦振り・扇振り)」も私にはできない。

日本と米国の「新人研修」の違い

後から上司に聞いた話だが、日本の銀行の新人研修では、まず数字を「1から9まで」綺麗に書かされるらしい。字が下手なことによる読み間違いや、数字の誤認ミスを防ぐためだそうだ。それに加えて、あの職人技のような紙幣を数える訓練もみっちり行うという。

しかし、ここはニューヨーク。日本円の紙幣よりもサイズが小さなアメリカドルの紙幣を、日本人よりも手の大きなアメリカ人が、あの繊細な動作で器用に数えられるとは到底思えなかった。ところ変われば、求められるスキルや訓練も全く異なるのだ。

湾岸戦争とジェットコースターのようなレート

先輩から聞いた話がある。

湾岸戦争が始まった瞬間、為替レートがジェットコースターのように激しく動いた画面を目撃したという。あの瞬間の緊張感は、経験した人にしかわからないだろう。

平時でさえ緊張感のある職場が、有事の際にどれほどの修羅場になるか。その話を聞いてから、私は仕事への緊張感をより強く持つようになった——はずだった。

気の緩みが招いた「許されないミス」

入行して半年が過ぎた頃だった。

為替トレードの業務にもすっかり慣れてきて、気持ちが緩んでいたのだと思う。あろうことか、銀行の利益(スプレッド)を乗せない金額を顧客に伝えて、取引を成立させてしまった。

本来であれば利益を乗せた金額で書類を作成するべきところを、顧客に伝えた「利益なし」の金額でそのまま処理してしまったのだ。

数日後、顧客からクレームが来た。

通話記録を上司と二人で聞いた日

上司に呼ばれ、二人で私の通話記録を聞いた。ちなみに全銀行員の通話は録音されている。

再生されていく自分の声。顧客に伝えた金額。 そして、その金額が明らかに間違っていることが、音声でありありと証明されていく。

私の間違いは、完全に露呈した。

顔色が変わっていたと思う。喉がカラカラに渇いていた。「申し訳ありません」という謝罪の言葉さえ、かすれて上手く声にならなかった。

金額も巨大だった。クビになるかもしれないと、本気で思った。

「バックデート」という救済

しかし、結果は予想外だった。

「バックデート処理」という方法で、システム上のデータを過去に遡って訂正する手続きをするだけで済んだのだ。

その場に座り込みたいくらい、ほっとした。

上司は優しく言った。

「誰でも間違いはするからあまり気に病まないで。次から気をつけるようにね。」

翌日はランチに誘ってもらい、大好きなお寿司をご馳走になった。あのお寿司の味は、今でも忘れられない。緊張と安堵が入り混じった、なんとも不思議な味がした。

モノもサービスもない世界で

ここで少し、銀行の仕事について補足したい。

前述の通り、すべてはシステムと書類の上で巨大な金額が動いていた。モノもサービスも直接提供していないのに、数字のやり取りだけで大きな利益が生まれる仕組み。最初はその構造に純粋に驚いた。

インターン時代に働いていた旅行会社は、完全な「薄利多売」の世界だった。お客様一人ひとりに丁寧にサービスを提供して、少しずつ利益を積み上げていく。

あの頃の泥臭くも温かい日々を、ふと懐かしく思い出した。

まとめ|ミスから学んだこと

「間違いは許されない」という緊張感は大切だ。しかし、どんなに強い緊張感も、日々の「慣れ」とともに少しずつ薄れていってしまう。

その一瞬の油断が、私に大きなミスをさせた。

幸いにも、上司の温かさと「バックデート処理」というシステムの仕組みに救われた。しかし、あの時味わった血の気が引くような感覚は、その後の私の仕事人生において、ずっと頭の片隅に残り続け、私を律してくれている。

「慣れた頃が一番危ない」

これは為替トレードに限らず、どんなプロフェッショナルの仕事にも言えることだと思う。

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