はじめに
「翻訳者」というと、自宅でのんびり仕事をしているイメージを持つ人も多いだろう。しかし社内翻訳者の現実は全く異なる。ビッグ4監査法人、ゴールドマン・サックス証券、BNPパリバ銀行、ドイツ証券、HSBCなど、外資系金融・監査法人で30年以上翻訳に携わってきた経験から、社内翻訳者のリアルな仕事の実態をお伝えする。
社内翻訳者とは?
社内翻訳者とは、企業に正社員または派遣社員として雇用され、社内外の文書を翻訳する職種だ。フリーランス翻訳者と異なり、特定の企業に属して働く。
主な勤務先
- 外資系金融機関(証券・銀行・保険)
- 監査法人・会計事務所(ビッグ4など)
- 上場企業の経営企画・法務部門
- ITコンサルティング会社
主な翻訳業務
- 有価証券報告書・アニュアルレポート
- 各種契約書・法務文書
- ESG・サステナビリティ関連資料
- 金融庁監査対応文書
- 社内外プレゼンテーション資料
ビッグ4監査法人での実態
社内翻訳者として最も激務だったのがビッグ4監査法人だ。
入社の経緯
最初は繁忙期の1ヶ月契約で派遣社員として入社した。その後数ヶ月が経ち、再び派遣社員として呼び戻され、最終的には正社員となった。繁忙期の実力が認められた形だ。
チーム体制と役割分担
翻訳者が翻訳だけに集中できる環境が整っていたのは助かった。財務諸表などの数字を入力する専門家や、文書の書式設定およびレイアウト調整の専門スタッフが別にいたからだ。数字の入力は専門家の方が圧倒的に早く正確だ。翻訳者は翻訳に専念できる体制が、品質と効率を両立させていた。
残業の実態
監査法人の繁忙期は3月決算に合わせた4〜5月だ。GWも土日祝日も関係なく出勤が続いた。朝7時から夜11時過ぎまで働く日もあった。今ならコンプライアンス上、大きな問題になっただろう。
繁忙期が続くと、翻訳者全員が最終的にはメガネをかけていた。通常はコンタクトレンズを装着しているのだが、痛くてコンタクトレンズが入らなくなるからだ。それだけ目を酷使する仕事だ。
給与について
基本給よりも残業代の方が多い月もあった。残業代で新車を購入した同僚もいたほどだ。ただし、その分だけ体への負担は大きい。若くないとできない仕事だと実感した。
やりがい
激務の中でも忘れられないやりがいがある。自分が一部を翻訳した専門書が出版され、初めて印税をもらったことだ。書店に並んだ本を手にした時の達成感は、今でも鮮明に覚えている。
外資系金融機関での仕事
ビッグ4以外にも、ゴールドマン・サックス証券、BNPパリバ銀行・証券、メリルリンチ日本証券など、さまざまな外資系金融機関での翻訳業務も担当した。
外資系金融の特徴
- 専門性が高い:金融・経済・法律の知識が必須
- スピードが求められる:市場に関わる文書は即日翻訳が基本
- 英語力だけでは不十分:金融の専門知識がなければ正確に翻訳できない
必要なスキル
- 英検1級レベルの英語力
- 金融・法務の専門用語の知識
- IFRS・US GAAPの基礎知識
- プレッシャーの中でも正確に仕事をする精神力
社内翻訳者のメリット・デメリット
メリット
- 安定した収入:毎月決まった給与と残業代
- 専門知識が身につく:特定分野の深い知識を得られる
- チームで働ける:役割分担された専門スタッフと協力できる
- 社会保険完備:フリーランスにない安心感
デメリット
- 繁忙期の激務:決算期は休日返上が当たり前
- 体への負担:長時間のパソコン作業で目・肩・腰への影響
- 専門分野に縛られる:その企業の業種に特化した翻訳が中心
社内翻訳者になるには
必要な資格・スキル
- 英語力:英検1級またはTOEIC930点以上が目安
- 翻訳スキル:翻訳学校での学習が有効
- 専門知識:志望する業界の基礎知識
翻訳者・通訳者を目指すなら、まず業界全体を俯瞰できる一冊を手元に置いておくことをおすすめする。『通訳者・翻訳者になる本 2027』は、なり方・仕事の実態・収入・求人情報まで網羅した定番ガイドだ。社内翻訳者として30年以上働いてきた経験から言っても、キャリアの入口で全体像を把握しておくことの重要性は大きい。
求人の探し方
- 外資系企業の採用サイト
- 翻訳専門の求人サイト(翻訳会社経由も多い)
- LinkedIn(外資系金融はLinkedIn経由の採用が多い)
まとめ
社内翻訳者は「静かに文章を訳す仕事」というイメージとは程遠い、プレッシャーと専門性の高い仕事だ。特に監査法人や外資系金融での繁忙期は、体力的にも精神的にも相当な負荷がかかる。
しかし、翻訳に専念できるチーム体制や、専門書の出版など他の仕事では得られないやりがいもある。英語力と専門知識を活かしたい人にとっては、魅力的なキャリアパスだ。



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