*この記事にはアフィリエイトが含まれています。
金融庁監査翻訳からの転職
金融庁の監査翻訳から卒業した次のステージは、ビッグ4のうちの一つ、監査法人への転職だった。ポジションは翻訳専任職。会計士と同等の専門職として迎えられた。
EDINETとは何か
主な仕事はEDINET——正式名称「Electronic Disclosure for Investors’ NETwork」、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムの翻訳だ。金融庁が管轄・運営するこのシステムに記載する書類の翻訳を担当した。
これまでのキャリアで積み上げてきた金融翻訳、IR翻訳、証券翻訳、そして金融庁の監査翻訳の経験が、ここで一つに結実した形だった。
日英から英日へ——戸惑いの転換
しかし、思わぬところで戸惑いがあった。
これまでのキャリアは日本語を英語に訳す「日英翻訳」が中心だった。ところが監査法人では突然「英日翻訳」を求められた。同じ翻訳でも、方向が逆になるだけでまったく勝手が違う。日英の方がやりやすかった。改めて翻訳の奥深さを思い知らされた。
EDINET翻訳をするうえで、有価証券報告書の構造を理解することは避けて通れない。書類の全体像をつかみたい方にはこの一冊が役に立つ。 →【有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術 リンク】
「先生」と呼ばれた日
そして、もう一つの戸惑いがあった。
ある日、誰かに「先生」と呼ばれた。自分のことだとは思わず、返事をしなかった。しばらくして、席の横まで来た人に肩を叩かれ、改めて「先生」と呼ばれて初めて気がついた。私のことだったのだ。
教師でも弁護士でも医師でもない。「先生」と呼ばれる理由がわからなかった。
「翻訳家だから先生とお呼びしています」
翻訳家だなんてとんでもない。私は翻訳者、いや翻訳屋だ。やめてほしいと頼んだ。しかし周りの全員が先生と呼ぶものだから、抵抗むなしくあっという間に慣れてしまった。
どうやら、私には謙虚という言葉は持ち合わせていないらしい。
積み重ねてきたものが形になった場所
監査法人が出版した本の翻訳にも関わることになり、生まれて初めて印税を受け取った。翻訳学校に通い始めたあの頃、まさか自分が出版物の翻訳者として名前を連ねる日が来るとは思っていなかった。
翻訳屋と名乗る私が、いつの間にかそこまで来ていた。
翻訳学校に10年以上通い、TOEIC満点を取り、英検1級を取得し、金融庁の監査現場で地獄を経験した。その全てがビッグ4の監査法人という場所で、翻訳専任職という肩書きになった。
先生と呼ばれるのはやはり照れくさい。それでも、あの遠回りだらけの道のりは無駄ではなかったと思っている。



コメント