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翻訳者として、最も過激な現場
翻訳者として数多くの現場を経験してきたが、間違いなく最も過激だったのが金融庁の監査翻訳だ。この仕事を10回以上経験している。企業先はすべて外資系金融機関——アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど、いずれも名の知れた金融機関だった。
残業の嵐、列をなす社員たち
現場に入ると、残業の嵐が待っていた。
時間がない。書類を作成する余裕すらない。担当者は私の隣に座り、口頭で話し始める。私はそれをリアルタイムで英語に打ち込んでいく。訳文ができた途端、その人はプリンターへと走り、出てきたばかりの紙を手に会議室へと走っていく。
気がつくと、私の席の隣に列ができていた。
それぞれが書類を手に持ち、マークをつけながら、書き込みをしながら、自分の番を待っている。順番が来ると話し始める。まとまっていない段階のことも多いので、何度かやり直しをする。私も質問をして、内容に間違いがないことを確かめる。その繰り返しだった。
おにぎりとやりがい
ランチに行く暇などなかった。それでも、おにぎりやサンドイッチ、さまざまな飲み物を差し入れしてくれる人たちがいた。「少しは休んでね」と温かい言葉をかけてくれた。お化粧室に行くのが精一杯の毎日だったが、その言葉だけで十分だった。
地獄のような現場だった。それでも、やりがいがあった。
自分の訳文が即座に使われ、監査の現場を動かしている。その手応えは、他の仕事では得られないものだった。結果として何度も同様の依頼を引き受け、リピーターになってくれた企業もあった。
卒業を決めた朝
十分な経験を積み、知識も得た。しかし、ある時期から週末になるとベッドから起き上がれなくなった。食欲もなくなり、人生が楽しいと感じられなくなっていた。
激務の現場でやりがいを感じながらも、ふと自分の働き方を見つめ直したくなる瞬間があった。仕事とは何か、働くとはどういうことか——そんな問いに向き合いたい方に手に取ってほしい一冊が「働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える」だ。
燃え尽き症候群になる前にやめようと思った。
あれだけやりがいを感じていた仕事が、楽しくなくなった時が潮時だった。自分の体と心が出したサインを見逃さなかった。金融庁の監査翻訳から静かに卒業した。
その後の転職に、この経験が優位に働いたことは言うまでもない。



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