第9.6章(後編):アメリカの大学の卒業式|タッセルを縫い付けて、珍発音された私の名前

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5月のその日は快晴だった。

お気に入りのピンクのワンピースの上に卒業ガウンを羽織った。そして四角い卒業帽とタッセル(帽子の真ん中からぽろりと垂れ下がる房飾り)を見て、途方に暮れた。


タッセルを縫い付けてしまった

タッセルは卒業帽に最初からついているものだと思っていた。しかし実際には別々に包装されている。

仕方がないので裁縫箱を取り出し、帽子の一角にタッセルを縫い付けた。頭に載せてみると、随分タッセルが長い気がした。しかし身長が低いからそう見えるのかもしれないと、自分を納得させた。

そのまま一人で、卒業式の会場まで車を運転していった。


留学生だけの「名前チェック」

まず留学生だけが、卒業証書を手渡してくれる学長に自分の名前の正確な発音を伝えるという手続きがあった。私の名前は苗字も名前も英語圏の人にはとても読みにくい。学長のアシスタントと思しき人が隣で発音のメモを取っていた。

また「ご両親は来ていますか?」と尋ねられた。少し不思議に思ったが、細かいことを気にしない私は「一人です」と答えた。


ハッとした瞬間

周りを見回して、ハッとした。

他の卒業生のタッセルは帽子のセンターボタンに引っ掛けてある。だからタッセルは輪になっているのだ。気が付くのが遅かった。私だけタッセルを帽子に縫い付けていた。

ハサミがなかったので、縫い付けたタッセルを帽子から引きちぎった。時間がなくていい加減に縫い付けていなかったのが不幸中の幸いだった。そして、私は何事もなかったかのように、他の学生と同じようにタッセルをセンターボタンに引っ掛けた。


教授に呼び止められた

その時、二人展の指導をしてくれた教授に呼び止められた。

「おめでとう!」

嬉しそうな教授の顔を見て、泣きそうになった。そして教授は「タッセルは右側に垂らすんだよ」と言って、左側にあった私のタッセルを右へ直してくれた。縫い付けたままだったら、どれほど恥ずかしかったことだろう。

「ご両親は来ていないの?」と教授にも聞かれた。

周りを見ると、両親だけでなく兄弟姉妹、それに親族まで大勢の付き添いがいる留学生も少なくなかった。卒業式の後半では、そういった付き添いの方々が紹介されていた。地元の地方新聞のカメラも向けられていた。

後から母は「どうして卒業式に呼んでくれなかったの」と不満たらたらだった。何度も遊びに来ているし、友人や教授とも食事をしていたため、招待するという発想が全くなかったのだ。父は仕事が忙しくて来られなかっただろうが、声だけはかけておくべきだったと今でも後悔している。


発音のせいで別人の名前が呼ばれた

卒業式のクライマックスは、自分の名前が呼ばれてステージに上がり、卒業証書を授与される瞬間だ。

しかしなんと学長は、私の名前の発音を見事に間違えてくれた。一体誰のことを呼んでいるのかと思うほどの間違いだった。あれほど丁寧にメモを取っていたのに。


タッセルを左へ、帽子を空へ

全員への授与が終わると、式典はクライマックスを迎えた。壇上の学長がマイクの前に立ち、厳かに、かつ力強く宣言した。

「By the authority vested in me, I now declare you graduates. Please move your tassels from the right to the left. Congratulations!」(ここに皆さんを卒業生として認めます。それでは、タッセルを右から左へ移してください。おめでとうございます。)

この合図とともに、何百人、何千人もの学生が一斉にタッセルを左へ動かした。会場全体が割れんばかりの大歓声と拍手に包まれ、そのまま帽子を空高く投げ飛ばす最高潮の瞬間へとつながった。

しかし私は、かたくなに帽子を抱えていた。

8月の夏期講習でアメリカ史の単位を落としたら卒業できない「仮卒」の身だったからだ。万が一もう1回卒業式に出るような事態に陥った時、帽子が必要になる。それに、あの観衆の中で投げたら無くす危険が大きすぎる。


リムジンでパーティへ

式典の後、クラスメートの両親が用意してくれた長いリムジンに乗り、大学を一周して街中を通り、パーティ会場へと向かった。リムジンの中ではシャンパンが配られたが、飲めない私は乾杯だけにした。

それでも、あの日の快晴と、教授の「おめでとう」という言葉は、今でも鮮明に覚えている。

仮卒業での卒業式は、嬉しさ半分、不安半分だった。夏期講習のアメリカ史のことが、頭から離れなかった。

*留学前からネイティブと話す練習を積んでおこう。

【Cambly(キャンブリー)】

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