コラム:ピンクのパジャマとミキサー食の感動|入院生活を明るく過ごす工夫

*この記事にはアフィリエイトが含まれています。

入院が決まった時、私はひとつ決めたことがある。

レンタルパジャマは使わない。自分のパジャマを持っていく。


テーマは「可愛い」

ピンクのパジャマにガウン、手提げ、そして靴まで。すべてをピンクで統一した。

病室にもピンクのiPad、ピンクの小物——気がつけば完全なるピンクワールドが出来上がっていた。

「ピンクがお好きなんですね」と、何度聞かれたかわからない。看護師さん、担当医、言語療法士、掃除のスタッフ。ほぼ全員に言われた気がする。

好きな色に囲まれていると、気分が明るくなる。それだけで病院のあの独特の空気が少し和らいだ。


ラウンジで過ごした日々

舌がんの手術後は、身体は普通に動く。だから歩き放題だ。そのためほとんどの時間を共有のラウンジで過ごした。

iPadで、今まで観たかったのに時間がなくて見られなかった映画やテレビドラマを次から次へと楽しんだ。字幕翻訳に興味のあった私は当然洋画と海外ドラマ(英語)だけを観ていた。

がんは程度にもよるが「切れば治る」と言われている。5年後の寛解を目指して、早めの社会復帰を夢見ていた。手術直後だから今は話せなくても仕方がない。しかしリハビリを真面目に継続すれば、いずれ元のように話せると、その時は信じていた。


一番辛かったのは、食事の匂いだった

痛みより辛かったことがある。

それは、食事の時間に漂ってくる匂いだ。他の患者さんの食事を運ぶカートのガラガラという音と、廊下から漂ってくる食事の匂いが、食欲をそそった。つまり、その我慢の方が痛みの我慢よりずっと大きかった。

どこまで食いしん坊なのかと、自分でも呆れた。


口から食べられるまでの道のり

手術直後は口から食べられない。鼻から胃へ管を通す「経鼻胃管」で栄養を補給する。

傷口が癒えてきた段階で、看護師が「唾液や水分を安全に飲み込めるか」の嚥下テストを行う。安全が確認されてから、まずは水やゼリー、とろみをつけた水分など、ごく少量の飲み込みやすいものから慎重に再開する。

とろみのある水を飲んで誤嚥がないことを確認した夜、ついに夕食が出ることになった。

私はすぐに壁のメニューを見に行った。メインは麻婆豆腐だった。辛くないといいな、と思いながら、食事を運ぶカートのガラガラという音が聞こえた瞬間、ラウンジから自分の部屋へと小走りで戻った。

今か今かと待ち望んでいた夕食が、ベッドのテーブルに置かれた。

えっ。ミキサー食って、こういうものなの?


麻婆豆腐も、ほうれん草も、全部トロトロだった

初めて目にするミキサー食は、想像をはるかに超えていた。

麻婆豆腐も、ほうれん草のおひたしも、ナムルも、すべてがトロトロとした液体状だった。しかもおひたしとナムルは両方とも緑色で、見た目では違いがわからない。さらに食べてみてもわからないので、食器に貼ってある料理名を見て初めて「これがおひたしか」とわかる有様だった。

それでも、嬉しかった。

美味しいとは言えなかった。しかし口から食事が取れることが、たまらなく幸せだった。噛めなかったけれど、噛み締めて味わった。


食べられることは、当たり前ではない

食べられるという当たり前の行為が、こんなにも貴重に感じられるとは思わなかった。

平均年齢まで生きたとして、1日3回食事をすると計算した。残りの食事回数は思ったより少ない。だからこそ、一食一食を大事にしようと心に誓った。

そして強く思った。一日も早く回復しよう。回復して美味しいものを食べるまでは死ねないと思った。

結局、入院中の私の頭の中は食事のことでいっぱいだった。しかしそれは同時に、人生においていかに食事が大切かを改めて認識した瞬間でもあった。

当たり前のことができていること。それは決して当たり前ではない。つまり、そのことを幸せと呼ぶのだと気づいた。


*退院後も嚥下食・ミキサー食が必要な方へ。市販の介護食・嚥下調整食はAmazonや専門サイトでも購入できます。介護食品 キユーピー やさしい献立 歯ぐきでつぶせる アソートセットなどが重宝した。

※この記事は個人の体験談です。 医療上の判断は必ず担当医にご相談ください。

コメント