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毎年、区のがん検診を受けている。今年も同様に受診したところ、口腔がん検診だけが再検査が必要となった。再検査を受けても何でもなかったことが数回あったため、今回も特に心配はしていなかった。
舌がんの告知
翌日の土曜日、近くの大学病院で検査を受けた。
舌がんステージ2。
舌を半分近く切除すると言われた。その瞬間、真っ先に心配になったのは「仕事」だった。がんになったことが会社に知られれば、派遣契約を更新してもらえないのではないか—そう考えたのだ。
今振り返ると、健康よりも仕事を優先していた自分が滑稽に思える。忙しさに追われ、心が病んでいたのだろう。
3日後に入院、手術へ
医師から「手術は急いだ方が良い」と言われ、3日後の火曜日に入院し、水曜日に手術を受けた。
2024年12月中旬。街にはジングルベルが流れ、冬休みを前に誰もが浮かれているように見えた。
「話せない」恐怖と派遣切り
通訳者兼翻訳者だった私は、手術後に想像以上に会話ができないことに驚いた。声が出るが、言葉にならない。言いたいことが話せない、そして伝わらない。生まれつき備わっている機能を失った。それは人間としての根本的な喪失感でもあった。
派遣契約の打ち切りの不安が頭を駆け巡った。そして実際に契約は継続されず満了となった。いわゆる派遣切りである。「正社員の通訳者権翻訳者を雇用する」というのが表向きの理由だった。当たり前だと思う。話せない通翻訳者を必要とする会社などあるだろうか?
不要になった途端、派遣社員はまるでゴミのように捨てられる。派遣社員の代わりはいくらでもいるのだ。その現実に気づけなかった自分を笑うしかなかった。
リハビリの始まり
退院後は、リハビリ科の言語聴覚士のもとで週1回の発話リハビリを続けた。最初は五十音、次に単語、そして文章へと段階的に進める計画だった。
まさかそのリハビリが1年以上も続くとは、当時は思っていなかった。
嚥下訓練も含まれていたが、食べられないことよりも話せないことの方が辛く不便だった。1日でも早く社会復帰できるよう、発話中心の訓練を進めてもらった。
手術中に痛めた3本の歯を抜歯し、インプラントが必要となった。しかし手術後まもないためインプラント手術はできず、ぐらつく歯を放置するしかなかった。痛みもあり、噛むこともできず、舌を切除したことで飲み込むことも困難な状態が続いた。
当然通常の食事はできない。全てがゼリー状の食事を取っていた。すき焼きも麻婆豆腐も何もかもがゼリー状だった。すき焼きと書かれていなければすき焼きとはわからなかった。視覚的情報がいかに重要であるかわかった。
術後のリハビリ生活のなかで、何よりも辛かったのが「食事が満足にできないこと」であった。舌を切除したことでうまく飲み込めず、抜歯した歯の痛みもあり、噛むことすらままならない。お粥ばかりでは栄養も偏り、体力も気力も落ちていく一方であった。
そんな絶望的な時期の身体を支えてくれたのが、市販の介護食や高カロリーの栄養補給飲料である。
正直に言えば、最初は「介護食」という響きに抵抗があった。しかし、実際に口にしてみると、今の自分の口内環境でも無理なく飲み込める滑らかさであった。少量でも必要な栄養やカロリーを効率よく摂取できるため、食事のたびに感じていた「食べなければいけないのに、痛くて喉を通らない」というストレスから劇的に解放されたのである。
決して「美味しい」と言えるものではなかったが、この時点で大事なのは食事を楽しむことではなく、生きるための体力をつけること。私と同じように、術後の食事に途方に暮れている方へおすすめしたい。
失業手当も受け取れなかった
発話が不完全だったため、ハローワークでは失業手当の支給を拒絶された。失業手当とは、働けるのに仕事が見つからない人のための制度だ。話せない私は「働ける状態」とみなされなかったのだ。
代わりに障害手当が支給されることになった。
前を向くためのひとつの行動
自宅に引きこもりがちな毎日で、気分が晴れることもなかった。しかしメンタルクリニックの医師の助言で、思い切って親しい友人に会った。
事前に状況を説明し、発話が不明瞭な場合は繰り返し聞き返してほしいと頼んだ。長年の友人だったので、お粥を食べながら会話を楽しめた。コミュニケーションには話すだけでなく、聞くことも含まれる。聞き上手になった私は充実した時間を過ごし、他の友人にも会いたいと思い始めた。
しかしその矢先——続きは次の章で。
どれほど若く健康であっても、誰にでも病気のリスクはある。がん検診は必ず受けてほしい。何も見つからなければ、それはそれで最高の幸せだ。
※闘病や療養中は、一人で抱え込まず、主治医や家族、信頼できる友人、専門家に相談することも大切である。
※この記事は個人の体験談です。 医療上の判断は必ず担当医にご相談ください。



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